EC広告のROAS依存を卒業する——LTVベース広告運用が2026年の標準になる理由

EC広告のROAS依存を卒業する——LTVベース広告運用が2026年の標準になる理由

「ROAS 300%達成!」という数字に喜んでいたのに、気づけば利益は出ていない。広告費は増えているのに売上の伸びが鈍い。そんな経験はないでしょうか。

EC運営において長年「正義」として機能してきたROAS(広告費用対効果)という指標が、2026年の今、根本から見直しを迫られています。

3rd Partyクッキーの段階的廃止、Google・Metaなどの広告プラットフォームでのCPM単価の上昇(過去3年で平均1.3〜1.5倍)、そしてAIを活用したデータ分析の民主化。これらの変化は、「1回の広告クリックで何円の売上があったか」ではなく、「その顧客が生涯でどれだけの価値をもたらすか」で広告を評価・最適化する時代が到来したことを告げています。

本記事では、中級〜上級のEC事業者に向けて、LTV(顧客生涯価値)ベースの広告運用とはどういう考え方か、従来のROAS管理と何が違うのか、そして実務でどう取り入れるかを解説します。

目次

そもそもROAS(Return On Advertising Spend)の何が問題なのか

ROASとは「売上 ÷ 広告費 × 100(%)」で算出される指標です。直感的でわかりやすく、広告代理店もGA4もShopifyも標準で表示してくれるため、長年にわたって広告の成否を測る物差しとして使われてきました。

問題は、ROASが「その広告クリックで発生した直後の売上」しか評価しないことです。

たとえば、あるキャンペーン経由で獲得した顧客Aが初回4,000円を購入し、その後1年間で4回リピートして合計20,000円の売上をもたらしたとします。一方、別のキャンペーン経由の顧客Bは初回8,000円を購入したがその後一度も戻ってこなかった。

ROAS視点では初回売上が高い顧客Bを獲得したキャンペーンが優秀と評価されますが、実際のLTVは顧客Aの方が2.5倍高い。

ROASを最大化するよう広告予算を最適化し続けると、利益率の高い長期顧客ではなく、一度だけ買う顧客を大量に獲得するキャンペーンに予算が集中していくという構造的な問題が生まれえるのです。

2026年にROAS依存が危険な3つの理由

クッキー規制でラストクリック計測の精度が低下している

GoogleはChromeの3rdパーティークッキー廃止を段階的に進めています。これによりモデルベースのコンバージョン計測が広がり、実際に誰がどの広告経由で購入したかが以前より不明確になりつつあります。計測精度が下がっているROASを絶対指標として最適化するのは、ノイズの多い地図を頼りに航海するようなものです。

CPMの高騰でROAS目標を達成しにくくなっている

Meta広告・Google広告ともにCPMは過去3年で顕著に上昇しています。競合増加と入札競争の激化により、同じROAS目標を維持するためには以前の1.3〜1.5倍の広告費が必要になっているケースも増えています。この環境では「目標ROASは達成しているが、CPOが上がって利益が出ない」という状況が発生します。

AI自動入札がROAS最大化を文字通り実行してしまう

Google・Metaの自動入札は優秀ですが、ROAS最大化を目標に設定すると初回単価が高い一見客を優先的に獲得する傾向があります。長期LTVを考慮した最適化は行われないため、機械に与える評価指標の設計が重要になります。

LTVベース広告運用とは何か

LTV(Life Time Value)とは、1人の顧客が生涯にわたってもたらす利益の総額です。

ECでよく使われる計算式は以下です。

LTV = 平均購入単価 × 購入頻度 × 平均継続期間 − CAC

LTVベース広告運用とは、ある広告経由で獲得した顧客群がその後どれだけのLTVをもたらすかを基準に広告を評価・最適化する考え方です。指標としては「Lifetime ROAS(生涯売上 ÷ 広告費)」や「ROAS@90(獲得後90日時点の累積売上 ÷ 広告費)」などが使われます。

ROASが点の評価なら、LTVベース広告運用は線の評価といえます。

LTV広告運用が変える3つのこと

評価する広告キャンペーンが変わる

初回単価ではなくリピート率が高い顧客を獲得するキャンペーンが評価されるようになります。スキンケアや食品などリピート前提のカテゴリでは特に差が大きくなります。

ターゲティングとクリエイティブの設計が変わる

初回購入を誘発する訴求ではなく、ブランドの世界観や継続利用の理由を伝えるクリエイティブが評価されやすくなります。

予算配分の判断軸が変わる

初回ROASが低くても90日後ROASが高いチャネルや顧客層に投資を増やす判断が可能になります。


実務での導入ステップ

ステップ1:コホート分析でLTVの高い顧客層を把握する

まず、過去データから「どのチャネル・キャンペーン経由で獲得した顧客のLTVが高いか」を分析します。

自社ECであれば、GA4の「探索」レポートが出発点になります。ユーザーのデフォルトチャネルグループ(Organic Search / Paid Search / Paid Social など)をディメンションに、購入回数や収益を指標に設定したコホート探索レポートを作ると、「どのチャネル経由で入ってきたユーザーが、その後も戻ってくるか」の傾向が見えてきます。

モール出店者の場合は、楽天RMSの「データ分析 > 顧客分析」でリピート顧客の推移と購入経路を確認する、Yahoo!ショッピングのストアクリエイターProでチャネル別の新規・リピート比率を追跡するといったアプローチが現実的です。完全なクロスチャネル追跡は難しくても、「クーポン配布施策経由の顧客と自然流入の顧客でリピート率にどのくらい差があるか」といった設問に答えるだけで十分な示唆が得られます。

最初は完璧なデータでなくていい。「SEO経由の顧客は広告経由より2回目購入率が1.3倍高い」「ある商品Aを初回購入した顧客のLTVは商品Bの1.7倍」といった傾向を掴むことが目的です。

ステップ2:LTV代理指標としてROAS@30・ROAS@90を設定する

広告経由の初回購入顧客をリスト化し、30日後・90日後の累積売上を確認します。主要カートシステムでは顧客IDで追跡可能です。

ステップ3:自動入札に正しい目標を与える

Meta広告とGoogle広告は、ファーストパーティデータを活用したカスタムコンバージョンの設定に対応しています。つまり「初回購入」ではなく「90日後にリピート購入した顧客」をコンバージョンとして定義し、そこに向けて最適化することが技術的には可能です。

実装の難易度は高めですが、段階的なアプローチとして「LTVが高い顧客の顧客情報をカスタムオーディエンスとしてアップロードし、類似オーディエンスを作成」するだけでも大きな効果があります。これにより「一見客に似た人」ではなく「長期顧客に似た人」にリーチできます。

ステップ4:チャネル別LTVレポートを月次で追跡する

Googleスプレッドシートで「ROAS@30」「ROAS@90」をチャネル別に記録します。3〜6ヶ月で傾向が見えてきます。


実践事例:LTVベース運用に切り替えた化粧品D2C

初回ROAS 200%以上を基準としていたブランドが、コホート分析の結果、ROAS 160%のキャンペーンの方が90日後ROASで上回ることを発見しました。

評価軸を「初回ROAS」から「ROAS@90」に変更した結果、広告費を増やさずに6ヶ月後のリピート売上が1.4倍に成長しました。


よくある疑問

90日待たないと判断できないのか

14日・30日後の2回目購入率を先行指標として使えば早期判断が可能です。過去データから相関を出すと予測精度が上がります。

モールではLTVが取れないのでは

楽天RMSのリピート率やYahoo!のストアデータで簡易指標を作成できます。特定商品の初回購入者の3ヶ月後リピート率を記録するだけでも傾向は把握できます。

ツール導入は必須か

スプレッドシートで「月次新規顧客数」と「3ヶ月後累積売上」を記録するだけでも十分です。ツール導入は傾向が見えてからで問題ありません。


まとめ

ROASは今も重要な指標ですが、唯一の評価軸として使い続けることは適切ではなくなっています。重要なのは初回ROASとLTVの両方で広告を評価できる状態を作ることです。

今月の新規顧客をリスト化し、3ヶ月後のリピートを確認するだけでも自社のLTVは見えてきます。そのデータが、LTVの高い顧客獲得チャネルという宝の地図になります。

また、顧客分析の基盤としてはGMOクラウドECのように顧客ID単位で購買履歴を確認できるカートを活用すると、リピート率や累積購入回数の把握が容易になり、コホート分析の元データを取得しやすくなります。広告チャネル別のLTV分析については、GA4やスプレッドシートなど外部データと組み合わせることで実現可能です。

広告費を使っているのに利益が残らない場合、ROASの改善ではなくLTVを見始めることが解決策になるかもしれません。


GMOクラウドECエバンジェリストとして、ECの構築・リプレイス・グロースマーケティングなどのご相談を承っております。プラットフォームの選定などのお悩みにもお答えします。お気軽にご連絡ください。

https://www.cloudec.jp

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この記事を書いた人

飯村 康男のアバター 飯村 康男 JPholic株式会社

JPholic株式会社 代表取締役
GMOクラウドEC エバンジェリスト

大学在学中にEC事業で起業。以降15年以上にわたり、EC・デジタルマーケティング領域に一貫して携わる。
自社EC・モール型EC(楽天・Yahoo! 等)の双方で実運用を行い、立ち上げからグロース、運用改善までを経験。

現在は自社ECの運営に加え、複数のクライアントECを支援。

広告運用・SEO・CRM・UI/UX改善などを横断した実践的なEC改善を得意とし、「机上の理論ではなく、売上につながる打ち手」を重視している。

ECNOWでは、現場視点をベースに「これからECを始める人」から「伸び悩んでいる運営者」まで役立つ、実務に直結する情報を発信中。

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